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地域団体商標。三田牛の本当の価値とは?【食べるエッセイvol.5】

ブランド牛の価値ってなんだろう?

あれは今から6年前。僕がまだ小さな肉屋を営んでいた時のことです。

「うちの店に、三田牛を分けてください」

「正真正銘の三田牛がほしいのです」

平日休日を問わず、店にはよくこんな電話がかかってきました。

この電話に、私はいつも頭を抱えていました。

丸優は、主に飲食店などに肉を卸値で販売する、いわゆるBtoB(企業が企業にモノを売る)のスタイルで仕事をしていますが、当時の私は小売業。

小さな店頭に、パック肉を並べるなど、主にBto C(一般のお客さん向けてモノを売る)の商いをしていたので「うちの店に、三田牛を分けてください」という飲食店さんからのお申し出は、ほとんどお断りしていました。

消費期限や人員の問題など、個人店ならではの課題は色々とあったのですが、本音をいえば「三田牛」のブランド名だけを求めるようなお店とは、取引したくないという肉屋なりのプライドがあったのでしょう。

電話越しに耳を傾けていると「三田牛さえ手に入れば、うちの店は繁盛するはずだ!」そんなふうに言われているように思えて、何だか少し悔しかったのです。

私はよくこのコラムで「食用に育てられた牛がマズいわけがない」とお伝えしていますが、私が取引をさせていただきている、料理人のみなさんは、三田牛を使わなくともちゃんとおいしい肉料理を提供できる方ばかりです。

肉の性質を理解し、最も適した方法で調理する。その上で、なぜうちの三田牛を使いたいのか、その理由を熱く語ってくれる。研究熱心で、誠実。人間としても尊敬できる方が多い。

こうした本物の料理人は、間違っても突然電話をかけてきて「正真正銘の三田牛を分けてくれ」とは言いません。

「三田牛さえあれば」とブランド名に踊らされるだけでは、店の問題を先送りにしているだけ。一流の料理人とは言えないでしょう。

地域団体商標制度を知っていますか?

ここで、どうしてこれほどまでに「三田牛」が求められるのか、少し考えてみたいと思います。

みなさんは「地域団体商標」という制度を知っていますか?

地域団大商標制度とは、2006年「地域ブランドの保護」を目的に「地域名」と「商品名」を組み合わせた商標登録を受けられるようにする制度です。

「三田牛」は、2007年8月、特許庁への申請が認められ、「三田肉・三田牛」の地域ブランド化が実現。

生産者、流通業者など、三田牛に携わる関係者が一体となり、歴史ある三田牛を守り育てていくための基準が確率された、大変喜ばしい瞬間でした。

その一方で、基準や定義を満たしていない肉に関しては「三田牛」「三田肉」と名乗ることはできなくなったのです。

しかし、まだまだ街には「三田・牛」や「三田★牛」など、絶妙にフォントや色を変えて、非正規の三田牛を破格で販売している店が存在するのも事実。

地域団体商標制度を知らない人からすると、偽物だと知らず、誤って注文してしまうこともあるでしょう。

「三田牛だと思って食べたら、大したことなかった」「三田牛っておいしくないんだ」

飲食店がブランド名を求めるあまり、三田牛の価値が誤って認識されてしまうのは、大変悲しいことです。

今思えば、あの時「正真正銘の三田牛がほしい」と慌てて電話をかけてきた店主も、このような現状を危惧していたのかもしれません。

僕は「ブランド牛だから良い、悪い」なんて思っていませんし、「三田牛以外は肉じゃない」なんて言うつもりも、全くありません。

ブランドの有無に関わらず、うまい肉はちゃんとうまい。

どんな肉でも、扱う人の手によって、うまい肉に変わることを知っているからです。

だけど、肉業界に携わる者として、歴史ある「三田牛」を守り育てていくことは、使命である、とも思うのです。

だからこそ、僕は丸優の代表として、これまで以上に肉と向き合っていくでしょう。

そして、同じように情熱を持って真摯に向き合っておられる方と、こうして今お取り引きができていることを、何よりも誇らしく思います。

丸優に関わってくださる全ての方へ。いつも、本当にありがとうございます。

なんだか、少し真面目な話になってしまいましたが、今日はこの辺で。

それでは、みなさまの今日が、明日が、より豊かでおいしいものになりますように。肉岡肉道でした。

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