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教えられる技術、伝えられない感性。整骨院の先生との意外な共通点【食べるエッセイvol.23】

技術は伝えられても、感性は伝えられない。

仕事には、言葉で伝えられる「技術」と、
言葉にできない「感性」の2つの側面があります。

技術は伝えられても、感性は伝えられない。

代表の立場になっても、僕が変わらず現場に立っているのは、こうした側面があるからなのかもしれません。


先日、予約制の整骨院を訪れたときのことです。

腕があることで有名な先生は、僕の身体に触れながら、こんなことを尋ねられました。

「社長になっても現場に入られているのですね。誰かに技術を伝えて、身体を休めたりはされないんですか?」

う〜ん、と少し考えてから僕は答えました。

「基本的なカットの技術は伝えられても、『肉の声を訊く(本質を捉える)』ってなかなか難しいんですよ。人に教えられたり、簡単に伝わるものではないんですよね」

すると先生は、

「そういうもの、なんですかねえ……?」と不思議そうに、首を傾げていました。

先生と僕の共通点とは?

「先生は、指圧で押す位置や鍼を刺すツボの位置を、どんな患者さんが来ようとも、誰かに完璧に再現できるように教えられますか?」

と、今度は僕が先生に尋ねます。

「いやいや、それは無理ですよ!」

「ほう、それは、なぜですか?」

「そりゃあ、僕の治療は、患者さん一人ひとりの身体に訊きながらの対処になりますし……」

とここまで言いかけた先生は、

「ああ、そうか!うん、確かにそうですよねえ……」と何かを納得された様子で、また治療に戻っていかれました。


僕は、普段から「肉の声を訊く」という表現を使います。

初めて耳にした方からすると「いやいや、肉は喋らへんやん!」と不思議に思うかもしれませんが、整骨院を訪れる患者の悩みが同じでないように、肉にもまた、個性や個体差があります。

肉は口をききませんが、人間だって、
全ての不調を言葉にできるわけではないでしょう。

「この辺りが痛いねん!」とか「なんか、ズキズキする痛みで……」と言っただけでは、十分に伝わらないですよね。

だから先生は身体に訊き、
僕は肉に訊くのでしょう。

整骨院の資格を持っているから大丈夫。
長年の経験があるから大丈夫なんてことはない。

先生は、
ツボの位置や骨格、年齢、肉付き、癖による微妙なズレ……。
こうした個々の調子を毎回感じ取り、治療していく。

そして僕は、
肉の部位や、スジやサシの具合、湿度や温度、季節よる微妙な違い……。
こうした個々の違いを毎回感じ取り、包丁を入れていく。

職種は違えど、僕たちがしていることは、きっと同じなのです。

ただこうした感性は、
誰かに教わってマスターしたものではなく、
知識を元に自ら血肉に叩き込んだもの。

それゆえ、人に伝えるのは、
なかなか難しいのです。

それでも。

「もっとよくしたい」
「これで本当に十分だろうか?」

絶えずこうした疑問をもち、前進することをやめなければ、いつか必ず「これだ!」と思う感覚を掴める日がやってくるはずです。

「丸優の未来を繋ぐ人材が、早く出てきて欲しいなあ〜」

そんなことを思いながら、僕はすっきりした身体と共に、整骨院を後にしたのでした。

それでは今日はこの辺で。

それでは、みなさまの今日が、明日が、より豊かでおいしいものになりますように。肉岡肉道でした。

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